◇初日から3連勝で引退なし
大相撲秋場所3日目(11日、東京・両国国技館)、進退を懸ける横綱稀勢の里が新鋭豊山の初挑戦を辛くも退け、初日から3連勝とした。
危機一髪、土俵際の突き落としだが、これも稀勢の里の本領といえる逆転勝ち。大きな関門の序盤5日間を、白星先行で乗り切れる計算になった。
豊山の突きを跳ね上げながらしのぎ、逆に前へ出ながら左をのぞかせた稀勢の里。右上手も引き、勝負あったかと思われたが、引き付けが弱く、重い豊山を寄り切れない。逆に左ですくわれて体を入れ替えられ、右でおっつけられて体が伸びた。悪い時の腰高に。
向正面へ寄り立てられ、万事休すと思われたが、土俵際で右から捨て身の突き落とし。物言いがつく際どい勝負の末、豊山を土俵にはわせた。
褒められない勝ち方とあってか、幾つかの質問に「あー」「ふー」と息を吐いただけの横綱。「攻め続けたが」と聞かれて「まあ、それが良かったと思いますけど」とようやく言葉を発した。
後は「まあ、しっかり集中して」「後はしっかりやるということ」「またあしたしっかり集中して」。験かつぎのような「ルーティン」になりつつある「集中して」を繰り返した。
年6場所制になった1958年以降に引退した横綱は29人。このうち不祥事で去った双羽黒、朝青龍、日馬富士と病死した玉の海を除いて、初日から3連勝した場所が現役最後になった例はない。危機脱出を望むファンにとっては心強いデータだろう。
◇これも本領の突き落とし
土俵際の突き落としは、最盛期の白鵬に土をつけたり貴重な星を拾ったり、これまで何度も稀勢の里を助けてきた。
亡き先代師匠の元横綱隆の里は現役時代から「俵に足が掛かってからが相撲」と仕込まれ、稽古でも土俵際で小手投げを打って弟弟子たちを怖がらせたほど。
稀勢の里もその教えを受けてきた。この日、左のかかとが俵を踏み越しかけた瞬間、とっさに土俵の中へ戻した芸当は、長い休場明けでも体が覚えていたのだろう。
初顔合わせで突き落としの洗礼を受けた豊山は、物言いがついても「(横綱の足が)残ってたスからね」と自分の負けが分かっていたという。「あれで残られたら仕方ない。左を使わせないように考えてやったつもりだったんですけど」と、寸前で逃した金星を惜しんだ。
とはいえ、先はまだ長い。今の状況なら勝ち方は二の次だとしても、稀勢の里の3連勝は相撲内容が徐々に危なくなってきた。
この日は左を差して右上手を引く絶好の形になり、本来は横綱と前頭なら勝負ありなのに、寄り切れず逆襲された。
もともと引き付けは強くないが、場所前の稽古を見た二所ノ関一門の尾車親方(元大関琴風)が「(けがの影響が残って)自分では左をしっかり差せたつもりでも、相手は感じないのかもなあ」と案じたような状態かもしれない。
相手に先に手をつかせて自分だけの呼吸で立つ、横綱として褒められない立ち合いも、この日は1回目に行司待ったが掛かった。
これも以前からの稀勢の里の立ち合いで、見過ごされれば助かるが、気がはやり過ぎて待ったが掛かると、リズムが崩れないとも限らない。
トンネルの出口が見えるまで、周囲もファンもいましばらく緊張の日々が続きそうだ。(時事ドットコム編集部)
引用元: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180911-00000142-jij-spo
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