暴力団元組長との交友関係が明らかになった山根明氏(78)が8日、日本ボクシング連盟会長を辞任した。
反社会勢力と関わりながら築き上げた絶対的な権力のひずみとも言える数々の疑惑は厳しい批判を受けている。
日本連盟は真相解明を第三者委員会に委ねる考えだが、山根色を一掃して組織を立て直さなければ、2020年東京五輪への出場も危ぶまれる。
疑惑が浮上してから冗舌に持論を語っていた山根氏は親山根派でそろう理事から促されて覚悟を決めた。大阪市内のホテルで7日夜に開かれた緊急理事会に出席した理事の大半は辞意を固めていた。
8日に記者会見した日本連盟の吉森照夫専務理事によれば、直接的な言葉で山根氏に辞任を迫るのでなく「我々も辞するので会長も考えてください」「会長の功績を汚すことなく乗り越えられる」などと情に訴えたという。山根氏は理事会後、理事たちの言葉に「胸を打たれた」と話した。
山根氏が認めた助成金の不正流用や審判への介入など12項目を列挙した告発状は日本連盟が20日までに設置する第三者委員会が調査する。日本オリンピック委員会(JOC)と日本スポーツ協会は9月28日までに調査結果と改善点の報告を求めている。
JOCの加盟団体の規定は「勧告」「補助金及び交付金の支給停止または減額」「資格停止」「除名」の4段階の処分がある。
五輪出場はJOCに加盟または承認された競技団体の推薦が必要で、資格停止や除名の処分を受けた場合は、東京五輪に出場できない恐れもある。
吉森氏は緊急理事会で山根氏に「連盟や選手たちに嫌な思いをさせないように考えてください」と諭す声が上がったことを明らかにして「大きな動機となった」と説明した。
しかし、約3分間で一方的に打ち切った辞任表明は疑心暗鬼も生んだ。「再興する会」代表を務める鶴木良夫・新潟県連盟理事長は山根氏の「辞任」の意味を「理事にとどまるのか、会員として影響力を発揮するのか分からない」と戸惑いを口にする。
連盟には山根氏の除名を求め、権限が残った場合、刑事告訴も辞さない構えだ。吉森氏は確認はしていないと前置きしたうえで「すべて辞める」と説明したが、山根氏の影響力が何らかの形で連盟内で残ることへの懸念が根強い。
「再興する会」は記者会見で山根氏の出身連盟を優遇する「奈良判定」の新証拠を突きつけた。これまで山根氏が一貫して否定した部分だ。吉森氏は「会長が言ったのであれば影響を受けた審判がいる可能性がある」と指摘する。
山根氏の強権的な支配が広範囲でゆがみを生じさせていたことをうかがわせ、連盟関係者は「第三者委が調査したら、どれほど疑惑が出てくるのか」と戦々恐々とする。
連盟は新たな理事が選ばれる総会が開かれるまでは、現体制を維持する考えで、当面は森正耕太郎副会長・会計理事が会長代行を務める。鶴木氏は「各都道府県連盟の意見が通る公平な組織にしてほしい」と訴える。組織の立て直しの道は容易ではない。【倉沢仁志、小林悠太、村上正】
◇絶対的権力、逆らえず
山根氏はプロボクサーなどを経て1980年代に奈良県ボクシング連盟に入り、競技普及、選手発掘などに尽力して奈良県をボクシング王国に変えた。
91年に日本アマチュアボクシング連盟(現日本連盟)理事になり、94年から国際アマチュアボクシング協会(AIBA、現国際協会)常務理事を8年間務めた。自費で海外に出向いて人脈を築いたという山根氏は「男の人生を43年間、ボクシングにかけてきた」と言った。
山口組系暴力団の組長だった大阪市の男性(81)と付き合いが始まったのは60年ごろだったとみられる。山根氏は毎日新聞の取材に競技の大会運営などには「関わらせなかった」と語ったが、関係者の証言からは、反社会勢力とのつながりを背景に、地位を固めた様子がうかがえる。
元組長らによると、01年に大阪市で東アジア競技大会が開催され、AIBAで現在会長代行を務めるガフール・ラヒモフ氏を山根氏らが歓待した際、元組長と親しい元会社経営者が「スポンサー」だったという。
ラヒモフ氏は国際オリンピック委員会(IOC)が麻薬の密売疑惑などで懸念を示すほどの人物で、元組長は「山根みたいな人間じゃないと、マフィアみたいな人間と渡り合えない」と言い切る。
11年に日本連盟会長に就任した山根氏が海外遠征を積極的に行ったことが奏功して、12年ロンドン五輪では村田諒太選手が48年ぶりの金メダルを獲得した。
そこで山根氏が「力」を見せつけた場面があった。44年ぶりに銅メダルを獲得した清水聡選手は2回戦で相手を6度倒しながら一度もダウンと認められずに判定負けした。
監督・コーチ陣は抗議しない方針だったが、申請の締め切り30分前に山根氏が「やれ」と指示。AIBAによる審議で映像を見た韓国人事務局長(当時)が「どう見ても清水選手の勝ちだ」と口火を切って、結果が覆った。山根氏と事務局長は懇意で、関係者は「山根氏の政治力としか思えない」と振り返る。
ロンドン五輪の実績で山根氏は同年10月に定款にない「終身会長」に就任。奈良県連盟会長の長男昌守氏(53)を日本連盟理事に入れて重用した。誰も逆らえない雰囲気を作り、身内びいきとも取れる言動を重ねた。
スポーツ庁の鈴木大地長官は山根氏の辞任表明を受け「遅きに失した感はある。ここで終わったわけではない。こういう会長がいて誰も止められなかった。間違った方向に行ったら『違う』と議論できる健全な組織であってほしい」と注文した。【武本光政、来住哲司】
引用元:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180808-00000116-mai-spo
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