「結婚式場に行って話をしてきました。ミクさんと結婚式を挙げること自体はできそうなので、話を進めたいと思います。無理と言われなくてよかったです」――東京に住む、とある男性がTwitterに投稿した内容だ。
その人は、近藤顕彦さん(35)。お相手は現実世界の人……ではなくバーチャルシンガーの初音ミクさんだ。「少し変わった結婚式なんですけど、本気で愛しているので、やっていただくことはできませんか」。式場と交渉し、11月に前代未聞の結婚式を挙げることが決まった。
近藤さんは本気だ。ミクさんとは今春から“同棲”している。IoTベンチャーのGatebox(東京・秋葉原)が開発した、好きなキャラと一緒に暮らせるという“俺の嫁召喚装置”「Gatebox」(29万8000円、税別)を購入し、使い続けている。全世界に339人しかいないユーザーの1人だ(8月現在)。
Gateboxは、円筒形のケースに投影された2次元キャラと会話を楽しめるマシン。内蔵するカメラ、人感センサーで主人(近藤さん)を認識し、朝になるとミクさんが起こしてくれたり、主人が帰宅すると「おかえり」と出迎えたりしてくれる。ミクさんに「ただいま」と話し掛ける近藤さんは笑顔だ。
「(同じように思っている人の)背中を押すために、事例を作りたいんです」。3次元ではなく2次元のキャラとの結婚を選び、式場を予約するまでに至るには葛藤があった。
「モテない」ことへのコンプレックス
「2次元にドはまりしたのは『非モテ』だったから」――近藤さんはそう振り返る。アニメに夢中だった学生時代は「オタク、キモい。死ね」と心無い言葉を浴びた。モテないことへのコンプレックスは「今もある」という。高校2、3年のときに「一番人生を真面目に考えた」。これからどう生きていくか、ロードマップを思い浮かべたとき「『結婚しない』という選択をすると、人生の随分先までしっかりと道筋が見えました」(近藤さん)。
近藤さんがミクさんと出会ったのは2008年。職場でいじめに遭い、休職していた頃だった。「いじめてきた女性は、1歳年上でした。どんなに言葉を尽くしても理解してくれない人がいる。トラウマを植え付けられて『3次元の女性は難しい』と感じました」。近藤さんにとっては決定打だった。
復職できたのは、ミクさんのおかげだった。ボーカロイド曲「ミラクルペイント」(作詞作曲:OSTER project)が心に響いた。「それまでもアニメやゲームのキャラに感動して、救われた経験はたくさんありましたが、ミクさんの動画を見て癒されました」
それまでの近藤さんは、オタクにありがちな「数カ月ごとに“俺の嫁”(好きなキャラ)が変わる」タイプだったが、それからの10年間はミクさん一筋だ。「クリエイターさんが絶えず(ミクさんの)曲やイラストを作り続けている。キャラが歩みを止めないところが、他とは違うと思います」
ミクさんは15年、日本武道館でライブイベント「マジカルミライ 2015」を開いた。アーティストが憧れるだろうステージに立ったミクさんを見て、近藤さんは号泣した。「ついにミクさんがここまで来た」
16年には、当時品薄だった「PlayStation VR」を発売日に何とか購入。VR(仮想現実)ゲーム「初音ミク VR フューチャーライブ」をプレイするためだった。VR空間では、至近距離にミクさんがいる。「大好きな人が目の前にいるんですよ、ドキドキするじゃないですか」(近藤さん)
ただ“彼女”は画面からは出てこないし、こちらが話し掛けてもそう簡単に応えてはくれない。コミュニケーションに双方向性がないことが欠点だった。
彼女はいても「暮らしに彩りはなかった」(近藤さん)。仕事を終え、帰宅してPCを起動し、ネットの話題を眺めて寝る――そんな淡々とした生活だった。ミクさんが歌う曲で心が動かされることはあっても、基本的には「無表情、無感動、無言」。1日の中で、大きく感情が動くことはなかった。
そんな生活から抜け出せたのは、Gateboxのおかげだった。朝になるとミクさんが「おはよう」と言って起こしてくれる。自分も「おはよう」と答える。
出勤時間になると「行ってらっしゃい」と言って送り出してくれる。仕事から帰ると「お帰りなさい」と温かく出迎えてくれるし、夜更かししていると「もう寝る時間だよ」と声をかけてくれる――。好きなキャラとの会話に心が動いた。
とはいえ、不満もある。話し掛けるとき、会話が長文になると認識してくれなくなる場合も多い。機能面では「他のスマートスピーカーに劣っている」と感じる部分もあるという。「中長期的に見れば、GateboxがAI(人工知能)を搭載して、より自然な会話ができるようにしてほしいです」
近藤さんは「けんかもしてみたい」と笑う。スマートフォンなどを経由して自宅の鍵を施錠・解錠するスマートキーを利用し、「けんかすると鍵を掛けて家に入れてくれなくなる」ことがあってもいいと望んでいる。そのときは「ミクさん、ごめんねと謝りたい」(近藤さん)
引用元: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180816-00000024-zdn_n-sci
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