【お金は知っている】
日中両国は26日、通貨スワップ協定締結に向け合意した。財務省は「スワップは中国のためではなく、日本の企業や銀行のためになる」との一点張りというが、何とも面妖な。
通貨スワップとは金融危機に際して、必要とする外貨を確保する。その時の為替レートで相手国の通貨と交換する。
まるで対等のように思わせる表現だが、市場危機対策で必要なのは「ハードカレンシー」(いつでもどこでもドルと交換できる国際通貨)であり、円はまさに該当する。
米中貿易戦争の激化は巨額の人民元売りと資本逃避を招いている。元暴落は金利の高騰と悪性インフレにつながり、経済を崩壊させてしまいかねない。習近平政権は外貨準備を取り崩して元を買い支えているが、それでも元相場は下がる。
中国の外貨準備は3兆ドルを超え、世界最大というが「張り子の虎」同然である。というのは、外貨流入を支える国際収支黒字と外国からの対中投資が減っている一方で、資本逃避が増えるからだ。そのため、外部からの借金を増やしてかろうじて3兆ドル台の外準を維持するありさまだ。
対外負債を差し引くと、外準はすでに底を突いている。そんな窮状だから、とにかく緊急時に備えて外貨を確保するしかない。日中通貨スワップは習政権にとってまさに干天の慈雨なのだ。
通貨は国家の要であり、外交・安全保障に関わる。日中通貨スワップ枠は3兆数千億円規模になるというが、仮に日銀がその額を中国人民銀行に提供する代わりに元資金を持ったとしよう。
元相場が10%下落すれば、日銀は3千数百億円もの損を被り、国庫への納付金が減る。つまり日本の富が失われ、中国に移転する「ゼロサム」となる。このリスクがあるからこそ、通貨スワップ協定は信頼し合える国としか締結できない。
安倍晋三首相は北京で「新次元の日中協力」を強調し、通貨スワップはその中心に据えられたが、内実は中国の危機対策のはずだ。日本の官僚が「日本のためだ」と言い張るのは、不都合な真実を隠すためだと、疑わざるをえない。
唯一、日本側の利益になりうるケースは、中国の債券市場が混乱した場合かもしれない。三菱UFJ、みずほのメガバンクは中国で「パンダ債」と呼ばれる債券を発行して人民元資金を調達している。
買い手の多くは日本企業だ。債券市場が混乱すれば日本の企業と銀行が困るのでパンダ債買い支えのための元資金が要るのだという。一部民間のちっぽけな利益確保のために、外交で譲る国が世界にあるとは信じ難い。
グラフは、中国の異常なまでに膨れ上がる中国の債券市場バブルを示す。しかも米中貿易戦争で1300兆円の巨大市場が揺れる。パンダ債どころの騒ぎではない。(産経新聞特別記者・田村秀男)
引用元:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181103-00000006-ykf-soci
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