【有本香の以毒制毒】
14府県で195人もの方が、「平成30年7月豪雨」の犠牲となられた(12日現在)。衷心よりご冥福をお祈りいたしたい。
一方、依然60人超の方が安否不明だ。連日30度超えの暑さのなか、懸命の捜索活動を続ける自衛隊や警察、消防の皆さんに感謝と敬意をささげつつ、被災地外の私たちは今、「1人でも多くの生存者を」と祈るしかない。多くの国民が同じ気持ちであろう。
だが、驚くべきことに、この大変な災害さえも、自らの「政争の具」にして恥じないアホ政治家や一部メディアがある。もはや怒りを通り越し、情けないとしか言いようがなく、この「政争バカ」たちをいくら嘆いても被災者の役には立たないので、今回は別の一件を取り上げる。
先週6日、オウム真理教の元教祖、麻原彰晃(本名・松本智津夫)死刑囚ら7人の死刑が執行された。予想どおり、直後から、刑の執行を疑問視・批判する声が上がったが、これもまた、安倍政権批判に絡めて言う向きが目立った。
私ごとだが、オウム真理教というと思い出すことがある。地下鉄サリン事件(1995年3月)の朝、会社員だった私は、たまたま有給休暇を取って家で寝ていた。午前10時過ぎ、家の電話が鳴り、無視を決め込もうかと思いながらも出ると、同僚からだった。
「よかった。無事だったんだね。すぐテレビつけて…」
普段どおり出勤していたら、自分が乗っていた可能性のある電車の車内で「毒ガスがまかれた」とテレビは伝えていた。
その後、麻原元死刑囚が逮捕されるまでの約2カ月、テレビや雑誌は「オウム狂想曲」状態となった。各局各社が争って、オウムの幹部を出演させ、「美人信者」を追いかけた。
その様子は、まるで新手の「数字(視聴率や部数)が取れる」タレントを追うがごときだった。「尊師」がどうの、ヘッドギアがどうのと、「オウム解説」にいそしむ様子は、重大事を伝えているようでいながら、浅薄で、どこかふざけていた。
今思えば、日本を脅かし続ける隣国・北朝鮮を、妙に面白がってイジる、今のテレビの空気と似ていたとも感じる。当時、私は一連のオウム報道を不快な思いとともに見ていた。自分が被害者になったかもしれないからだけではなく、
「何か根本から間違っているのでは」との疑問があったからだが、翌年、オウムへの破壊活動防止法(破防法)適用が見送られたとき、初めて「日本は間違った方向にある」と確信した。
自ら製造した猛毒の神経ガス「サリン」を、霞が関や皇居に70トンも空中散布して大量殺人を実行し、混乱に乗じて自動小銃を持った信者が首都を制圧する-という国家転覆計画を企てていた(=当時の捜査関係者談)団体に対し、破防法を適用しなかった事実は、国家として痛恨の極みとも言うべきことだ。
当時、適用に反対した団体、例えば日本弁護士連合会(日弁連)は、今回の死刑執行にも、「死刑執行に対し強く抗議する」という声明を出している。日弁連に限らないが、かつてオウムの破防法適用に反対した面々と、今回の死刑執行に反発する人々・団体が確実にカブっていることは今後も注目に値する。
今、もっともらしく「死刑廃止」を言い出すメディアもあるなか、執行命令書に署名した上川陽子法相には敬意を表したい。とかく安手のポピュリズムに堕す政治家が多いなか、毅然と任にあたった上川氏の胆力は、国民の安全を守るに関し底の抜けている日本にあって、まさに一筋の光明である。
■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『リベラルの中国認識が日本を滅ぼす』(産経新聞出版)、『「小池劇場」の真実 』(幻冬舎文庫)など多数。
引用元: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180713-00000011-ykf-soci
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