東京医科大が2018年2月に実施した一般入試(医学部医学科)で、女子受験者の得点を一律で減らし、合格者の数を抑えていたことがわかったと報じられた(読売新聞、8月2日)。
女子だけに不利な操作は、2011年ごろから続いていたとされ、文部科学省の私立大支援事業を巡る汚職事件の捜査過程で、東京地検特捜部もこうした操作を把握しているという。
医師を目指して必死に受験勉強をしていたのに不合格となり、別の道を選ばざるを得なかった女子受験生も少なくないだろう。
東京医大が公表している2018年度入学者選抜状況によると、一般入試の受験者は男子1596人、女子1018人(計2614人)で、入学者は男子71人、女子14人(計85人)だった。単純に割合でみても、女子の方が狭き門になっている。
今回の問題はまだ全容が明らかになっていないが、公正な選抜が行われると信じて受験し、「不正操作」により不合格となったとして元女子受験生が東京医大の法的責任を追及することはできるのか。教育問題に詳しい高島惇弁護士に聞いた。
●東京医大、説明義務違反で賠償責任も
ーー法的な問題点を教えてください
「まず、受験段階における説明義務違反の問題が挙げられます。すなわち、受験申込みの段階に当たり、申し込むか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を受験者へ提供しなかった場合には、大学は、申込みにより被った損害について、不法行為に基づく賠償責任を負う可能性があります。
仮に『女子の定員数が男子よりも大幅に低い』という情報が事前に提供されていた場合、他の大学を受験するとの判断に至った受験生は一定数存在したものと思われるため、説明義務違反として損害賠償請求が認められる余地はあります。
また、刑事事件としても、意図的に情報を提供せずに受験者を集めた場合には、理論上、詐欺罪が成立する余地はあるかもしれません」
ーー女子受験生が平等に扱われていないという指摘もあります
「はい。仮に定員数を事前に公表していた場合でも、平等原則違反を検討する必要があります。一部の報道によると、不正操作の理由として、女性医師が結婚や出産を理由に離職した場合、系列病院の医師が不足するおそれがある点を挙げています。
しかしながら、女性医師が皆結婚や出産するわけではありませんし、仮に結婚または出産してもすぐに現場復帰するケースは十分考えられます。
だとすれば、女性だからという理由で一概に離職のおそれを指摘するのは到底合理性があるとは考えられませんし、かえって女性の社会進出を阻む価値観です」
ーー当直の問題を挙げる意見もあるようです
「本質的には当直制度の改善を図るべきであって、その不利益を受験生に課すのはやはり合理的な関連性がないと考えます。結局、仮に女性医師の離職を懸念したのだとすれば、それは女性というカテゴリーを一律に捉えた偏見に他ならず、平等原則に違反しているのではないでしょうか」
●受験料や予備校費用は請求できる
ーー東京医大への合格を目指して、多くの時間と費用をかけた受験生の損害はどう考えられますか
「損害について、受験料や不合格後浪人中の予備校費用は、不合格と相当な因果関係があるとして問題なく請求できると思います。
また、入学機会を失ったことによる精神的苦痛に関する慰謝料についても、一定程度認められるのが通常です。
これに対し、仮にその後医師になれなかった場合、生涯収入に関する逸失利益を損害として認めるかどうかは、入学後中退する可能性や国家試験の合格率を考慮すると、争いが生じるものと思います。
もっとも、女子は男子よりも国家試験の合格率が高いといった統計上のデータを重ねることで、一定程度、相当因果関係が認められる余地はあるかと存じます」
ーー他の大学でも同様のことがあるのではないかと疑う向きもあります
「本件については、東京医大単独の問題というよりは、業界としての体質的な問題が背景事情にあるのかもしれません。
そのため、他の大学における受験実施状況も踏まえて、徹底した調査を行うとともに、男女間における不当な差別が生じないよう、入学後の教育課程も含めた改善を目指すべきではないでしょうか」
【取材協力弁護士】
高島 惇(たかしま・あつし)弁護士
退学処分、学校事故、いじめ、体罰など、学校内におけるトラブルを精力的に取り扱っており、「週刊ダイヤモンド」にて特集された「プロ推奨の辣腕弁護士たち」欄にて学校紛争問題が得意な弁護士として紹介されている。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp弁護士ドットコムニュース編集部
引用元: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180803-00008332-bengocom-soci
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