都内の公立小に通う3年生の息子がいる、会社員の佐藤さん(仮名)。9月1日の始業式、ランドセルのふた部分に防災頭巾を挟みこみ、サブバックに道具箱と体操着、給食袋などを持って登校する息子を見送った。
この日の荷物を測ってみると、ランドセルが3.6キロ、サブバックが3.2キロ。合わせて計6.8キロにもなった。
「道具箱などイレギュラーな荷物はありましたが、始業式の日は夏休み明けのテストだったので、教科書は持って行っていないんです。だから、普段より軽いはずなのですが…」(佐藤さん)
入学前には「少しでも軽いものを」と本革ではなく合成皮革の軽量ランドセルを選んだが、それでもランドセルだけで1150グラムほどになる。荷物を入れると「親が持っても、えっと驚く重さ」だ。図工や音楽、体育で使う道具は学校に置きっぱなしだが、それ以外の教科の教科書などを置いて帰る「置き勉」は禁止されている。
●約8.7キロの荷物を持つ小学1年生も
「子どもがランドセルを背負って倒れそうになった」。知人からこんな話を聞いたのをきっかけに、大正大学人間学部の白土健教授は、2017年秋からランドセルの重さ調査を行なっている。
2018年4月には、小学1~6年生の47家庭でランドセルの重さを調査した。その結果、ランドセル単体で1日の平均は約4.2キロ。小学3年生が最も重い6.7キロのランドセルを背負っていた。
また、ランドセルとサブバックを合わせた1日の平均は約5.4キロ。中には、約8.7キロの荷物を持っていく小学1年生もいた。小学1年生の体重平均値は男子も女子も約21キロ(平成29年度学校保健統計)だから、体重の3分の1以上の重さを背負っていることになる。
白土教授は「教科書やノート、図録などに加えて、上履きに外履き。ランドセルだけでは入らず、ほとんどの子がサブバックを持って通っていた」と振り返る。ランドセル単体では、1000~1500グラムのものが多く、軽量をうたうものだと1000グラムを切るものもある。
「私たち大人であっても、スーパーから5キロのお米を手で持って帰るのは辛いですよね。子どもたちは大人よりもはるかに小さな体で、場所によっては20~30分歩いて学校に通っています。首や肩が痛いと話す子も多くいました」(白土教授)
●進む教科書の「大型化」
なぜ、ここまで荷物が重くなっているのだろうか。これには、2011年から小・中・高校で順次実施された「脱ゆとり教育」が影響している。
2017年の「教科書発行の現状と課題」(一般社団法人教科書協会)によると、「脱ゆとり」に方向転換した学習指導要領の改訂により、小中高校で教科書のページ数が大幅に増えた。国語、社会、算数、理科4教科の平均ページ数の合計は、小学校で2002年で3090ページだったものが、2015年には4896ページと約35%増加している。
「教科書はB5からA4と大型化し、副教材も含めて量も質もボリュームを増している。教科書だけでなく水筒の持ち込みが許可されている学校も増え、教科書以外でも荷物は増えている」(白土教授)
加えて、「置き勉」が禁止されている学校も多い。白土教授が調査した中には、補助教材として配られるプリントをとじたファイルを毎回持ち運びするよう言われている児童もいた。学年末が近くにつれ、ファイルはどんどん重みを増す。
●文科省「現時点で内容も時期も未定」
9月3日には、文部科学省が宿題で使用しない教科書やリコーダー、書道の道具などを、教室の机やロッカーに置いて帰ることを認めるよう、近く全国の教育委員会などに通知するとNHKが報じた。
文科省教育課程課の担当者は弁護士ドットコムニュースの取材に対し、通知は「現時点で、内容も時期も未定」としながら、「工夫している学校の事例を示して、参考にしてもらうことを考えている」と話した。
白土教授は「国が子どもたちの荷物が重いことに気づいて、ようやく対策を考え始めた。ロッカーは開架式ではなく、海外のような鍵のかかるものにし、教科書の大型化に合わせて大きなものを用意する必要がある」と指摘する。
●保護者「場所はないですよ」
前述の佐藤さんは「この通知がどれだけ意味あるのか」と疑問に感じているようだ。
佐藤さんの息子が通う学校にも確かに、教室の後ろに一人ずつ開架式のロッカーがある。しかし、そこは主にランドセル置き場となっており、すき間に無理やり絵の具や算数セットを入れているような状況だ。それでも足りず、廊下のフックに上履きや体育館履きの袋を吊るして、荷物を置いているという。
「児童数が増えて教室が足りず、パソコン教室などを潰して教室にしている状況なんです。置き勉許可の通知がされても、教室にはもうスペースがないですし、ロッカーを新設しようにも学校内にだって場所はないですよ」(佐藤さん)
神奈川県の公立小に通う1年生の息子がいる滝本さん(仮名)も、学校で「置き勉」は禁止されている。後ろのロッカーは、ランドセルに加え、1キロ近い粘土と防災用ヘルメットで既に埋まっている。「教科書はどこに入れるんですかね。無理やり入れるしかないと思います」と話す。
置き勉禁止が通知されたとしても、具体的にどこにどのように置くのかは各学校の判断に任されるため、状況が改善していくかどうかは未知数だ。
そもそも、本当にランドセルでなければいけないのか。紙の教科書ではなく、タブレット端末を利用した「デジタル教科書」が活用できないのか。ランドセル問題をきっかけに、これまでの学習環境のあり方を考え直す時期にきている。(編集部・出口絢)
弁護士ドットコムニュース編集部
引用元:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180903-00008472-bengocom-soci
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