「これまで考えられなかったことが実際に考えられる状態となりました」
最近の米国の中国への政策や態度の変化を評して日系米国人学者のトシ・ヨシハラ氏が語った。米海軍大学教授として長年、米中関係を研究してきた専門家である。そのとおりだと実感した。
最近のワシントンでは官と民、保守とリベラルを問わず、中国との対決がコンセンサスとなってきた。トランプ政権の強固な立場は昨年末に出た「国家安全保障戦略」で明示された。
要するに中国は米国だけでなく米国主導の国際秩序の侵食を目指すから断固、抑えねばならないという骨子である。年来の対中関与政策の逆転だった。
ワシントンではいま中国に関して「統一戦線」という用語が頻繁に語られる。中国共産党の「統一戦線工作部」という意味である。本来、共産党が主敵を倒すために第三の勢力に正体をも隠して浸透し連合組織を作ろうとする工作部門だった。
「習近平政権は米国の対中態度を変えようと統一戦線方式を取り始めました。多様な組織を使い、米国の官民に多方向から働きかけるのです」
米国政府の国務省や国家情報会議で長年、中国問題を担当してきたロバート・サター・ジョージワシントン大学教授が説明した。
そんな統一戦線方式とも呼べる中国側の対米工作の特定部分がワシントンの半官半民のシンクタンク「ウィルソン・センター」から9月上旬に学術研究の報告書として発表された。米国全体の対中姿勢が激変したからこそ堂々と出たような内容だった。
「米国の主要大学は長年、中国政府工作員によって中国に関する教育や研究の自由を侵害され、学問の独立への深刻な脅威を受けてきた」
こんなショッキングな総括だった。1年以上をかけたという調査はコロンビア、ジョージタウン、ハーバードなど全米25の主要大学を対象としていた。アジアや中国関連の学術部門の教職員約180人からの聞き取りが主体だった。結論は以下の要旨だった。
・中国政府の意を受けた在米中国外交官や留学生は事実上の工作員として米国の各大学に圧力をかけ、教科の内容などを変えさせてきた。
・各大学での中国の人権弾圧、台湾、チベット自治区、新疆(しんきょう)ウイグル自治区などに関する講義や研究の内容に対してとくに圧力をかけてきた。
・その工作は抗議、威嚇、報復、懐柔など多様で、米側大学への中国との交流打ち切りや個々の学者への中国入国拒否などを武器として使う。
この報告の作成の中心となった若手の女性米国人学者、アナスタシャ・ロイドダムジャノビク氏はこうした工作の結果、米国の大学や学者が中国の反発を恐れて「自己検閲」をすることの危険をとくに強調していた。
こうした実態は実は前から知られてきた。だがそれが公式の調査報告として集大成されて発表されることが、これまでなら考えられなかったのだ。
いまの米国の対中態度の歴史的な変化の反映だといえよう。さて、わが日本でのこのあたりの実情はどうだろうか。(ワシントン駐在客員特派員 古森義久)
引用元: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180923-00000514-san-n_ame
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