アニメ「マジンガーZ」の韓国版といえる「ロボット・テコンV」の著作権侵害をめぐる訴訟で、韓国の地裁は、テコンVの固有の著作権を認める判決を下した。1970年代に制作され、国民的アニメとして不動の地位を占めながら、「マジンガーのパクリ」と言われ続けてきたテコンVの「汚名をそそいだ」と韓国メディアは“勝訴”を際立たせて伝えた。ただ、判決を詳しく読み解くと、テコンVがマジンガーのモノマネであることを否定しているわけではないようだ。(ソウル 桜井紀雄)
■被告業者「模倣キャラに著作権はない」
訴訟は、テコンVの著作権を保有する株式会社「ロボットテコンV」が、テコンVにそっくりなブロック式のおもちゃを販売した玩具輸入業者を相手取って「著作権を侵害された」として、損害賠償を求めたものだ。
注目されるのは、業者側の論法だ。「テコンV自体が日本のマジンガーZやグレートマジンガーなどを模倣したキャラクターだ」と主張し、著作権で保護される創作物とはみなせないと反論したのだ。
開き直りともいえる強引な言い分だが、これに対し、ソウル中央地裁は7月31日、テコンVとマジンガーの外観上の違いなどを指摘。テコンVは「独立した著作物」などとの判断を示し、著作権侵害を認めて、業者に4千万ウォン(約400万円)の支払いを命じた。
この判決を、韓国紙、朝鮮日報は「『マジンガーのパクリ』の汚名そそぐ」との見出しで報道。別の韓国紙、ハンギョレ(電子版)は「30年ぶりの訴訟で初の勝敗が出た。もちろんテコンVが勝った」と、あたかも国民的アニメがマジンガーに勝訴したと言わんばかりに喜びをにじませた。
■長年の非難から取り戻した自尊心
1976年に初公開されたテコンVは、テコンドーの技と動きを取り入れたロボットアニメで、このアニメに憧れてロボット開発の道を目指した人も少なくない。
生誕30年の2006年には、韓国ロボット産業の発展と大衆化に貢献したとして、韓国政府から住民登録証に当たるロボット登録証を授与された。中央日報は「韓国アニメの自尊心だ」と評した。
ところが、マジンガーZと酷似していることから「盗作だ」との非難に長年、さらされてきた。朝鮮日報によると、テコンVの監督自身、「当時は小雨で服がぬれるように日本文化の影響を受けざるを得なかった。だが、それなりに民族の魂を入れようと努力した」と振り返り、マジンガーZの影響を受けた事実を認めている。
13年には、韓国の彫刻家が、韓国が「独島(トクト)」と呼んで占拠する竹島(島根県隠岐の島町)に「島の守護神」として、テコンVの像を設置しようと計画したが、「独島に日本アニメの模倣物を設置するとは何たることか!」と国内から非難が巻き起こり、計画は頓挫した。
そうした経緯から、今回の判決で「テコンVはパクリじゃなかったんだ」と国民的自尊心を取り戻した人も少なくなかったようだ。
■メディアが目をつぶった「変形・脚色」の一文
だが、今回の判決文は、外観上の違いを指摘した上でこう判断を示している。
「テコンVは、マジンガーZなどと区別された独立した著作物、もしくは、これを変形・脚色した二次的著作物に該当するとみなすべきだ」
「二次的著作物」とは、辞書には「既存の著作物を翻訳・編曲・変形・脚色・映画化など翻案することによって創作された著作物」とある。小説の翻訳や映画化作品、原曲をアレンジした音楽作品などがこれに当たる。
つまり判決は、テコンVがマジンガーを変形・脚色した作品である可能性を否定しているわけでなく、わざわざ明示までしているのだ。その上で、アレンジ作品であっても当然、著作権は発生するという法律上の常識を提示したにすぎない。
韓国メディアは、意図的に目をつぶったか、無意識にか、この「二次的著作物」の判断には着目せずに「独立した著作物」だけを見出しに抜き出して、パクリじゃないと立証されたかのように伝えている。
テコンVとマジンガーの類似性は現在では、許容範囲を超えるものとみなされるだろうが、70年代の日韓のアニメ事情からして、致し方ない面も否定できないのではないか。
「日本のパクリじゃない」と狭小な愛国心にしがみつくより、そもそも文化は模倣から始まり、発展するという定理を認め、開き直る方がよほど生産的だ。韓国アニメは、日本のまねから始まり、独自性も開花させてきたね-でいいじゃないか。
今回の判決をめぐるメディア報道は、いまだ“日本離れ”ができない韓国社会のせつなさを逆説的に示してもいるようだ。
引用元: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180804-00000513-san-kr
みんなのコメント