新卒学生の入社前の「内定者研修」。拘束される学生からは不満の声もあがっています。
大学生のコウヘイさんは春に内定(形式的には内々定)を得た企業から、「入社前研修」と称して、月に2回ペースで業務体験を課されてきました。内容は実践的なスキルを学ぶものや、施設の見学などでした。
競合他社に内定者が流出することを防ぐための「拘束」のようにも見えますが、コウヘイさんは「入社後の研修期間にやればいいのに」と疑問を抱いています。交通費と懇親会の費用は企業が負担したものの、賃金の支払いはありませんでした。
参加は任意という建前でしたが、欠席を届け出る際には、その理由を詳細に説明する必要があり、「半強制的」だとコウヘイさんは感じています。このような研修に問題はないのでしょうか。労働問題に詳しい櫻町直樹弁護士に聞きました。
●会社は内定者に対して指揮命令をすることはできない
ーー会社と内定者の法律関係についてどんな考え方があるのでしょうか?
「ごく簡単に説明すると、入社前の内定者との労働契約自体は成立していますが、指揮命令をすることはできない、とするのが判例をもとにした考え方です。
もっと詳しく説明しましょう。入社日より前の段階における会社と内定者との法律関係をどう考えるかについては、最高裁判所昭和54年7月20日判決(民集33巻5号582頁)で、会社と内定者との法律関係について、『就労始期付・解約権留保付労働契約』であると判示されています。
なお、あくまでその事案についての事実関係を前提にした判断で、常に『就労始期付・解約権留保付労働契約』にあたるという訳ではありませんが、この事案における事実関係(誓約書の提出や、内定通知以外の文書が予定されていないこと等)は、
今日の採用活動においても共通していると思われますので、就労始期付・解約権留保付労働契約にあたるケースが多いのではないかと思います。
ですから、冒頭申し上げた通り、就労始期(=入社日)が大学卒業直後とされているのであれば、労働契約自体は成立していますが、いまだ就労開始時期ではないので、入社日より前の段階では会社が内定者に対して指揮命令をすることはできない、ということになります」
●研修の参加にはあくまで同意が必要で、参加の強制はできない
ーー内定者と入社前研修についてはどう考えればいいのでしょうか?
「結論からいうと、会社が内定者に対して入社前研修への参加を求める場合には、あくまで『内定者の同意』が必要であり、参加を強制することはできない、ということになります」
ーーそれはなぜでしょうか?
「入社前における研修への参加義務が争点となった東京地方裁判所平成17年1月28日判決(労判 890号5頁)があります。『効力始期付の内定では、使用者が、内定者に対して、
本来は入社後に業務として行われるべき入社日前の研修等を業務命令として命ずる根拠はないというべき』であり、
『効力始期付の内定における入社日前の研修等は、飽くまで使用者からの要請に対する内定者の任意の同意に基づいて実施されるものといわざるを得ない』として、会社が内定者に対して入社前研修を義務付けることはできない、と結論づけました。
なお、この判決は就労始期付ではなく効力始期付(労働契約の効力が入社日に発生する)の場合でしたが、判決は『このことは、本件内定が就労始期付であるとしても、
入社日前に就労義務がない以上、同様と解される』と述べ、就労始期付の場合であっても結論に相違はないとしています。
また、この東京地裁平成17年判決では、『研修不参加を理由とする不利益取扱いは許されない』とも判示しています。
ですから、あくまで『内定者の同意』が必要であり、参加を強制することはできない、ということになるのです」
引用元: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181018-00008696-bengocom-life
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