元木ジャパンが始動する。巨人でプレーし、その後、野球評論家やタレント、実業家などマルチな活動をしていた元木大介さん(46)が、8月3日から開催される「カル・リプケン12歳以下(U12)世界少年野球大会」の日本代表監督にプロ経験者として初めて就任。29日に都内ホテルで結団式の臨み、翌30日に精鋭15人のメンバーを引き連れて、決戦の地となる米ミズーリー州ブランソンに向けて出発する。
現役時代の元木さんは実にクセ者だった。プレーでは頭脳的プレーで隠し球を成功させたり、何をしでかすか分からない。だからこそ、生前の闘将・星野仙一さんが「オレが監督の時、お前がいた時は正直、ほんとイヤだった。
何してくるんだとイライラした」と評し、今回のU12代表監督を託す形になった。もともとは「チーム星野」として2007年からボーイズリーグとヤングリーグで結成されたU12日本代表。今年1月に急逝した星野さんは生前から元木さんに監督就任を打診していた、という。
なぜ、元木を。どうしてクセ者を。いくら「相手がイヤがる野球」ができるからって、元木さんに少年たちを3大会連続世界一に導くことができるのだろうか。
と、正直、思ってしまう自分もいた。現役時代の彼を取材を通じて知っているからこそ、野球の王道たるプレーを究めるというよりも、どちらかというと元木さんの得意なヤジの仕方や、トリックプレーなどのテクニック習熟は、野球少年たちにはまだ早いのではないのだろうかと…。
そんな疑問は、元木さんの話で一気に氷解した。
元木さんは言う。野球とは、「流れ」というものが非常に重要なスポーツであって、流れのやり取りのなかで、それをつかんで離さなかった方が勝利を手にすることができるのだと。「だからね、俺は流れを変えられるようなプレーヤーを目指してきたの。
本当に相手が嫌がることとか、何か隙を見つけてとか、っていうのは、試合の流れをちゃんと見てないとできないからね」。現役時代に自ら先頭に立ってヤジ将軍を務めたのにも、だから理由があった。
「ベンチでさ、ボールを見ていないと、プレー見てないと、ヤジれないの。声出せないの。だから、若い選手には、今の少年たちにもそう言うんだけど、まずとにかく、一番前に座って声を出しなさいと。
何でもいいから、声を出しておけ、と。そのプレーに対して声を出しておけば、そのプレーをずっと見ていることになるから。勉強になるから。流れを読めるようになれば、試合のなかでの自分の役目も分かってくるようになって、準備もしっかりできるようになる」
そんな考えの源流は、これまでに出会ったさまざまな指導者から学び得たものでもあるが、特に、巨人の2軍監督やヘッドコーチなどを歴任した須藤豊さんの教えが強くある。
「すーやん(須藤さんの愛称)が、相手投手が牽制したらベンチから走者に向かって大きな声で『バック!』って言えって、よくね。
なーんで言わなきゃいけないんだ、ちゃんと(ベースに)帰るよ、プロなんだからって最初は思ったりもしたんだけど、やっぱりそれもプレーを見ておけってことだったの。
自分がランナーで出た時も、牽制で、何かしらピッチャーのクセでも見れるんじゃないかな、ってことだったのよ。だから、少年野球で教える時でも、ベンチでは牽制したら、みんなでまず『バック!』って言いなさい、って。俺が教わったことでいいことだな、と思うことは子供たちにもね」
なるほど。改めて「元木野球」の真髄の一端を垣間見た気がした。確かに、現役時代の元木さんは、試合だけでなく、試合前のグラウンドなどでも実に鋭い観察眼で周囲を常に見ていた。ふだんは見慣れない関係者が球場を訪れると、必ず「あの人、だれ?」と確認。
しっかり取材している報道陣と、そうではない記者をちゃんと見分けてもいた。だから、時にマスコミに対して厳しい塩対応をし、それが悪くも書かれ、イメージが誤解されて作られたり、曲解記事で仕返しされたりする部分もあったりした。
そんな話を聞きながら、ふと、今の巨人を思ってみた。ベンチから声は出ているか。元気はあるか。プレーに集中しているか。元木さんも古巣のことがやっぱり心配でならないようだ。
「伝統ある強い巨人軍、ってずっと言われているけれど、何かなくなっているものがあるんじゃないかな、とは思う。巨人は強くなきゃいけないって、
だれもが知っているけれど、若い子たちが入ってきて、今まさに、期待をかけられて使ってもらっているけれど、そういう気持ちでやっているのかなって。
岡本が4番を打つようになって、ようやくなんかこう、花咲いてきているじゃない。まだつぼみみたいなものだけど。あの岡本が頑張っているから、他の2軍の選手が、俺らできんじゃないのって、もっと強く思って出てきて欲しいしね」
強い巨人であることは伝統であり宿命だと思って、選手には、特に若い選手には、その自覚をもっと強く持って、歯を食いしばってガムシャラにやって欲しい、と元木さんはエールを送る。不祥事なんかを起こすヒマなんて本当はないはずだと。
話はすっかり脱線した。 元木さんは常勝巨人に憧れ、野球浪人してまでユニホームを通したジャイアンツで引退して、もう14年が経った。
「来年でオレ、現役と引退が同じ年になっちゃう。15年で。だから、30年経つって、あっという間。やっている時、長いんだけど、辞めたら1年がめちゃくちゃ早い」。苦笑いの表情は、久しぶりの真剣勝負を前に、キリリと引き締まっている。
「たかが2週間の少年野球だと思ったら大間違いだと思う。自分としてもプレッシャーを感じている。日の丸を背負っていくんだから」。U12日本代表が目指すのは3大会連続6度目の優勝、世界一だ。チームを率いる元木監督の暑い夏は、これからさらに熱くなるだろう。(記者コラム・佐々木 良機)
引用元: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180724-00000082-sph-base
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