今月21日、浦和レッズDF遠藤航のシント・トロイデン(ベルギー)移籍が発表された。すでに関根貴大、冨安健洋という日本人選手を擁するクラブに新たな一枚が加わった形だが、そもそもこのクラブは『DMM.com』に買収された日本資本。
先日には『イナズマイレブン』の株式会社レベルファイブがスポンサーになったことでも話題になったが、最高経営責任者(CEO)はFC東京でゼネラルマネージャーなどを務めていた立石敬之氏である。
日本サッカー界にとっては、欧州の最前線へ切り込むための橋頭堡がベルギーに生まれたようなものと言えるかもしれない。
いきなりドルトムントへ引き抜かれた香川真司や、バイエルンに請われた宇佐美貴史のようなパターンもかつてはあったわけだが、近年のトレンドは少しレベルの落ちるクラブやリーグを選択し、そこを足場にしながらステップアップを図るという方向性だ。
少し前はドイツの下位チームや下部リーグが人気だったが、ポーランドを経てブレイクした森岡亮太(アンデルレヒト)、スイス経由を選択した久保裕也(ヘント)、そしてポルトガルから挑戦を始めた中島翔哉(ポルティモネンセ)のように、欧州のいわゆる5大リーグ(イングランド、スペイン、ドイツ、イタリア、フランス)
ではないところから上を目指す形が成果を見せていることで、また少し空気感が変わりつつある。シント・トロイデンの存在はある意味で例外的とも言えるのだが、選手側が「ベルギー移籍」という選択をためらわなくなっていることの意味は小さくない。
植田直通(鹿島アントラーズ)のベルギー行きも発表になったが、こうした傾向は少なくとも短期的には加速していくと思われる。
そしてもう一つのトレンドとして挙げられるのが、ユース年代からの欧州挑戦だ。典型例はハンブルガーSVの伊藤達哉だろう。
柏レイソルU-18に所属していた彼が欧州への挑戦を選択したのは高校3年生の夏。トップクラスのチームに所属していながら、ユース年代の過程を途中で切り上げて渡欧するというのは珍しい事例だった。
ただ、Jユースに所属する選手が国際ユース大会などで活躍し、現地から興味を持たれる、あるいはオファーを受けるというのは珍しいことではなくなっている。
欧州と違って日本のJユース所属選手は契約書を交わしていないことが多く、実質的には「フリー」に近い状態にあるため、水面下では欧州行きを希望する選手と所属クラブの間でトラブルが発生する例も出てきた。
日本独特の高校や大学のサッカー部に所属する選手についても、欧州からの関心は強まっている。選抜チームや年代別日本代表で出た国際ユース大会でのプレーがオファーにつながるケースが多いようで、
高校の監督が「何かスペインから話が来たのだけれど、どうすればいいかな」と困惑するような例もある。過去には宮市亮(ザンクトパウリ)のように高卒で直接欧州へ渡った選手もいれば、現在は逆輸入Jリーガーとなっている長澤和輝(浦和)、渡邉凌磨(アルビレックス新潟)のようなパターンもある。
いずれにせよ、アマチュアチームからの「卒業」に際して「Jリーグか海外か」という選択肢を提示される選手が増えているのは間違いない。伊藤のように、在籍している最中の移籍を提示されることもあるだろう。
また、スペイン3部のエストレマドゥーラに所属するU-21日本代表GK山口瑠伊のように、16歳でフランスに渡り、そこから欧州でのキャリアを築いている選手もいる。
山口はフランス国籍も持っていたという少々例外的なケースではあるのだが、日本のユース年代の選手が実力的に欧州でも一定以上の評価を受けられるレベルなのだという指標にはなる。
日本国内でトップクラスの評価を受けるようになってから欧州へ挑戦するのではなく、できるだけ早く欧州へ。そしてそれはトップクラブでなくとも、5大リーグでなくともいい。まずは渡欧し、欧州での足場を作って評価を得ること。
そうした考え方が主流になっていくのはJリーグとして難しい面もあるのだが、日本人選手の評価が欧州のステージで上がることは「移籍金で儲ける」というビジネスチャンスが生まれる流れでもある。
国内の制度や慣習、あるいは契約に関する根本の考え方の部分を含め、時代に合わなくなっている部分を改めていくことで、新たなトレンドへ対応していく必要があるだろう。
文=川端暁彦
引用元: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180723-00798129-soccerk-socc
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