◇闘う姿勢示さず
大相撲の貴乃花親方(46)が25日、日本相撲協会に「引退届」と弟子らの転属願を提出した。夕方から親方が記者会見し、これを受けて相撲協会も記者会見。
双方の主張に食い違いが大きいだけでなく、親方自身の言動にも「?」が幾つもある。
記者会見で貴乃花親方は、旧貴乃花一門など現在無所属の親方11人が旧来の五つの一門いずれかに加入するよう求められた際、有形無形の圧力があったことを最大の理由に挙げた。事実なら法的措置に訴えることもできるケースだが、闘う姿勢は示さなかった。
期待したテレビ局などの質問にことごとく「ありません」と首を振った。「現在は」と前置きしているが、
元日馬富士による傷害事件で協会幹部を面と向かって批判し、被害届や内閣府への告発状を出すなどした姿とは、大きく異なって見える
。代理人弁護士は、歯がゆそうだった。協会との闘いに疲れ果てたとの見方もできるが、一方で大相撲や弟子育成への情熱はとうとうと語り、現在の相撲協会の在り方についても、以前ほど激しい批判はしなかった。
退職を余儀なくされるほどの圧力を受けたなら、折しもスポーツ界は「パワハラ」騒動続き。大きな追い風が吹くはずだが、どこか弱腰なのはなぜなのか。これまでとのギャップに違和感が残る。
◇弟子をめぐる言動
貴乃花親方はしきりに、弟子を思っての苦渋の決断だとして情に訴えた。しかし、協会の説明では、千賀ノ浦親方(元小結隆三杉)に受け入れを頼んだのは「引退届」を出す直前、
電話でだったという。協会に提出された転属願には、千賀ノ浦親方の印がなかった。
千賀ノ浦部屋が加入する二所ノ関一門の親方は「記者会見であれだけ弟子が心配だと言って、電話だけか。最近はメールで会社辞めますと言ってくる社員がいるらしいが、そういうものじゃないだろう」と怒る。
千賀ノ浦親方は長く貴乃花部屋付きだったので、貴乃花親方は「日頃から私に何かあったらお願いしますと話してあった」と説明した。
貴乃花親方の思い込みの激しさが出たとも言えるが、弟子への思いを切々と語る姿と、拙速な手順には落差がある。
◇告発状へのこだわり
貴乃花親方は、3月に内閣府へ提出して取り下げた告発状について、主張の根拠が事実無根だと認めなければ、一門に入れず協会にも残れないと「有形無形の圧力」を受けたと主張する。
取り下げたのは、弟子が春場所中に暴力沙汰を起こした責任を取ったためだが、協会内には内容が誤りだとして取り下げたのか、弟子と自らの保身を図って形だけ取り下げたのかを追及する声があった。
これに対し、5月の年寄総会で貴乃花親方が内容は正しいとの見解を示したため、協会との間で書面による見解のやりとりが続いていたが、協会の書面には見解が書かれているだけで、一門帰属や協会残留と結び付ける記載はなかった。
「真実は曲げられない」と胸を張るが、元日馬富士は引退し自らも処分を受け入れた事件をめぐる告発と、前途ある弟子に対する責任を、てんびんに掛けたことになる。
◇有形無形の圧力とは
貴乃花親方は圧力を掛けた「ある役員」の名は明かさず、真偽はやぶの中。「3月か5月の年寄総会でそれらしいことを言った親方はいた。当時はまだ一門の話はなかったが、貴乃花は頭の中で一緒になっているんじゃないか」と話す役員もいる。
帰属先決定の期限とされる27日の理事会が迫り、無所属11人のうち10人の行く先が内定。さまざまなうわさが飛び交い、
貴乃花親方が追い詰められる雰囲気ができていったのは確かだ。理事の一人は「幾ら何でも、行く先が決まらないからって、クビとか部屋の取りつぶしなんてできないよ」と言っていたが、貴乃花親方は思い込みが激しく、言い出したら聞かない。
それが行動力の源でありトラブルの種でもある。大横綱だけあって自己評価が高い分、被害者意識も強い。公然と圧力をかけなくとも、親方のそんな思考回路を計算に入れて絵を描いた人物がいるのでは、とみる若手親方もいる。
◇退職回避の道はなかったか
貴乃花親方は、五つの一門に入ることを義務付けた7月26日の理事会決議について、通達がなかったと協会の瑕疵(かし)を主張したが、協会側は「いつも理事会の決定事項は一門の理事から各親方に伝えている。
協会から直接、文書ではない」(芝田山広報部長)と説明する。これは協会の言う通りで、理事を4期8年務めた貴乃花親方は分かっているはずだ。それでも納得できなければ、直接問い合わせてもよかった。
決議を耳にした時期も、親方の説明と周囲の証言は食い違う。11人の所属先をまとめるよう指示された阿武松親方(元関脇益荒雄)は、
早くから貴乃花親方の所属先を案じ、秋場所中盤には「行くところがない」と伊勢ケ浜一門にも相談していた。
出羽海一門は秋場所前から一門会を開いていた。中堅親方は言う。「うちは立浪親方(元小結旭豊)の受け入れにも反対はあったが、
全員どこかに入れる協会の方針を前提に対応しようというのが基本姿勢だった。みんなで決めたことだから。貴乃花親方について議論したことはないが、話があれば可能性は全くなかったわけじゃないと思う」
行く先として取り沙汰された別の一門でも、ベテラン親方は「本人が言って来なければ検討しようがない」と、貴乃花親方の危機感の薄さに首をひねっていた。
引用元: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180926-00000122-jij-spo
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