カリッ、フワ、トロ~。日本に上陸したドーナツを食べるために、人々は長蛇の列を成し、あっという間に「行列のできるドーナツ店」の称号を手にした。クリスピー・クリーム・ドーナツ(以下、クリスピー・ドーナツ)である。
「懐かしいねえ。オレも新宿の店で並んだよ。平日にもかかわらず、1時間以上並んだ」といった人も多いのでは。その後、首都圏で店舗を増やし、大阪、名古屋などでも攻勢が続いた。出店するところ、出店するところで黒山の人だかりができ、9年間で64店舗にまで増えた。
しかし、熱狂は長く続かなかった。大手コンビニがドーナツ事業に参入したこともあって、“クリスピー離れ”が進んだのだ。急成長の反動などもあって、2015年3月期に8億1000万円の純損失に。店舗数は17年9月末に46店舗まで減少した。「もうクリスピーはダメだね。日本から撤退するでしょ」とささやかれていたなかで、復活の兆しがうかがえるのだ。
既存店売上高は9カ月連続でプラスを維持。3期連続で赤字が続いていたが、18年3月期は4期ぶりに増益を確保した。店舗は首都圏を中心に10店以上出すという。瀬戸際に立たされていたクリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンは、なぜ蘇ることができたのか。同社でマーケティングを担当している大内めぐ美さんに話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンラインの土肥義則。
●“できたてドーナツ”が話題に
土肥: クリスピー・ドーナツは1937年に米国で産声をあげて、いまではカナダ、オーストラリア、中国など27カ国で1100店舗ほど展開しているそうですね。日本には2006年に上陸して、新宿に1号店を構えました。メディアが大きく取り上げたこともあって、お客は殺到。連日、行列ができていて、当時のワタシも「日本のドーナツ屋さんとは違うなあ」と感心していました。
何に感心していたのかというと、列に並んでいる客に“できたてのドーナツ”を配っていたこと。できたてのドーナツを食べる機会はなかなかないので、長時間待っていても、あつあつのドーナツを食べることで客は満足していたのではないでしょうか。
もうひとつはパッケージ。日本のドーナツ屋さんはドーナツをタテに並べますが、クリスピー・ドーナツは違う。平置きにして並べるので、どうしても箱が大きくなる。街中を歩いていても、大きい箱が目立つので、「あの人、クリスピーのドーナツを買っている。いいなあ」と感じた人も多かったのではないでしょうか。パッケージを広告にするなんて「やっぱり米国のブランドは違う」と思ったのですが、熱狂は長く続きませんでした。数年後には行列を目にすることはほとんどありませんでしたし、店舗も大幅に削減しました。
「もうクリスピーはダメだ。日本から撤退するんじゃないの?」といった厳しい声があったなかで、既存店の売り上げは9カ月連続で伸ばしているとか。4期ぶりに増益を確保して、店舗も再び増やす。どん底から復活した話をお聞きする前に、なぜ業績が低迷したのか。そのへんの話を聞かせてください。
大内: 外的要因と内的要因があったのではないでしょうか。外的要因としては、やはりコンビニがドーナツ事業に参入したことが大きい。ただ、コンビニの場合、淹れたてコーヒーを購入するお客さんに「もう一品」という狙いで、ドーナツを展開していましたよね。当社の場合は、お土産やテイクアウトで購入するお客さんが多いので、ものすごく影響を受けたわけではありません。むしろ、内的要因によって業績が低迷したと分析しました。
土肥: 内的要因? 何があったのでしょうか?
●行列ができていた一方で、落とし穴があった
大内: 日本に上陸して、連日のように行列ができたわけですが、そこに落とし穴がありました。たくさんのお客さんが来られるので、店のスタッフは「いかに早く、いかに効率よく」対応することばかり考えていました。「はい、並んで、並んで」といった感じで。箱で購入される人はこちらに並んでくださいね、バラで購入される人はこちらに並んでくださいね、といった具合に行列をさばくオペレーションになっていました。
ものすごい勢いで売り上げが伸びていた、ものすごい勢いで店が増えていた。こうした背景もあって、現場はちょっと混乱していました。店によってレイアウトが違うので、店長は独自のやり方でうまく回していても、違う店に行くと同じやり方がうまくいくとは限りません。そうした状況だったので、お客さんにとっては「店によって対応が違うなあ」と感じられたかもしれません。会社全体で情報共有がうまくいっていなかったので、これではいけないと反省しました。
「いかに早く、いかに効率よく」といった対応ではなくて、できるだけ丁寧に接客する。以前は現場に任せる傾向があったのですが、会社として人材教育にチカラを入れるようにしました。商品をきちんと説明することができているのか、お客さんにきちんと接客できているのか、お店でゆっくりくつろいでいただけているのか。どこの店に行っても、心地よく感じられるサービスを受けられるように、改善していきました。
土肥: 「いかに早く、いかに効率よく」といったオペレーションを見直すために、人材教育にチカラを入れたそうで。ただ、いくら「商品を説明するようにしました」「接客も変わりました」といっても、客はどのように感じているのか。満足度がそれほど高くなければ、手前みそになってしまいます。
大内: 顧客満足度を調査したところ、前年比で6%伸びました。いくつかの項目があるなかで、特に「担当店員の親しみやすさやスピード」などが目立っていました。あと、以前に比べて、店舗間の差異がほとんどなくなりました。
土肥: お店でゆっくりくつろいでもらうには、スタッフの対応だけでは難しいですよね。
大内: いくつかの店でレイアウトを変更しました。例えば、東京の有楽町、渋谷、大阪の阿倍野などの店舗では席数を減らしました。以前は席数が多かったので、座ったお客さんは「ちょっと狭いな」「隣の人と近いな」と感じられたかもしれません。店内で心地よさを感じてもらうために、席数を20%ほど減らしました。
●席数を減らして客数を増やす
土肥: 外食チェーンの多くは売り上げを伸ばすために、できるだけたくさんの席を配置しますよね。でもクリスピー・ドーナツは心地よさを優先するために席数を減らした。そうすると、売り上げにも影響が出たのではないでしょうか?
大内: いえ、売り上げは逆に10%ほど伸びました。
土肥: おお。
大内: 誤解していただきたくないのですが、リニューアルの目的は席数を減らすことではありません。お客さんに心地よさを感じてもらうために、以前のようなぎゅーぎゅーのレイアウトは改善することにしました。結果、売り上げが伸びたということです。
土肥: 業績が低迷した原因として、内的要因が大きかったということで、オペレーション、店舗レイアウトを見直しました。そのほか、何か着手したことは?
大内: 日本で最も売れている商品は何か。断トツで「オリジナル・グレーズド」。当社は創業してから80年以上が経っていますが、オリジナル・グレーズドのレシピは一度も変えていません。世界共通の定番商品とも言えるのですが、日本でこのドーナツに次ぐ「ヒット商品」をつくることができていませんでした。
どうすればヒット商品をつくることができるのか。何をすればいいのか。オリジナル・グレーズドにチョコレートをトッピングしたり、ジャムをのせたり、シュガーをまぶしたりといった商品を出してきましたが、爆発的に売れたわけではありません。ああでもないこうでもないと考えて、創業時から味を変えていないオリジナル・グレーズドを生かしつつ、第2の核となるドーナツをつくることにしました。
グレーズドの表面をバナーであぶることで、ドーナツに苦味とカリッとした食感を加える。中にはカスタードクリームを詰めることで、トロリとした食感を味わえる。「ブリュレ グレーズド カスタード」という商品名で、2016年11月に発売したところすぐに話題になって、売り上げを見ると全商品(通常14~15種類)のなかで2位にランクインしました。
土肥: ふむ。ただ、新商品ってご祝儀相場のようなものがあって、販売当初はよく売れるのですが、その後はイマイチといったケースが多いですよね。他社でも「継続して売れることが大切」といった話をよく聞くのですが、この商品はどうだったのでしょうか?
●ブリュレ グレーズド カスタードは2位を維持
大内: ご指摘のとおり、当社でも同じような傾向があります。新商品を販売したところ、当初はよく売れてもその後はちょっと……といったケースがありますが、ブリュレ グレーズド カスタードは違う。発売してすぐに2位になって、その後も2位を維持しています。
土肥: そうした商品はこれまでにもあったのでしょうか?
大内: いえ、なかったです。先ほどもご紹介したとおり、最も売れているのは「オリジナル・グレーズド」。2位はチョコレートにカラフルなキャンディスプリンクルを加えた「チョコ スプリンクル」なのですが、1位と2位の差はものすごくあります。その差を縮めたという意味でも、新商品の貢献は大きいですね。
土肥: クリスピー・ドーナツはこれまでたくさんの商品を発売してきました。500種類以上も発売してきたので、ヒットしたモノがある一方で、苦戦したモノもあるはず。
大内: 数年ほど前から日本でハロウィンが定着しつつありますが、その前から当社ではハロウィンに関係したドーナツを発売していました。そのころはあまり売れなかったのですが、ハロウィンが盛り上がっていくと、それに合わせてドーナツも売れていきました。
同じようにイースター(復活祭)にちなんだ商品を発売しました。卵からひよこが顔を出しているドーナツを発売したのですが、日本でイースターと聞いても、まだまだ「なにそれ?」という人が多いですよね。こうした背景もあって、現時点でハロウィン関連のドーナツと比べると売り上げは低いです。
土肥: ま、今後のイースターの盛り上がりに期待するということで。
大内: ドーナツの真ん中に生クリームを加えた「プレミアム クリーム」も苦戦しました。2015年4~5月に販売したものの、ちょっと暑かったこともあって、販売数は伸び悩みました。味はおいしかったので、社内で「いける!」といった声が多かったのですが、残念ながら天候には勝つことが難しく……。
●愛され続けるにはどうしたらいいのか
土肥: なぜクリスピー・ドーナツの店で並ぶ人が少なくなったのか。「コンビニがドーナツ市場に参入したので、売り上げが減少したんでしょ」と思っていたのですが、実はそうでもない。考えてみれば、コンビニ各社は現在ドーナツにチカラを入れていませんからね。
業績が低迷したのは外的要因というよりも、むしろ内的要因の影響が大きい。行列をさばくためのオペレーションを見直したり、店内の席数を減らしたり、日本流の新定番を開発したり――。この3つがうまくかみあったことで、業績が回復しつつあるわけですね。
大内: 海外チェーンで「日本に上陸したけれども、数年後に撤退」といったところがありますよね。当初は物珍しさもあって話題にはなるけれど、その後はお客さんが離れていくといった具合に。当社の場合、「日本で長く定着して、愛されるブランドに育てようね」と考えていました。では、長く愛されるためにはどうすればいいのか。
オープンして10年ほどが経ったころに、「選択と集中」を考えて、店舗戦略を見直しました。東京、大阪、名古屋などに経営リソースを集中させて、それ以外のところは撤退することに。その後、ネガティブなニュースが流れたこともあって、社内で“負け癖”のようなものが付いていたのかもしれません。「これをやってもうまくいかなかったよね」「あれをやってもうまくいかなかったよね」「なにをやってもうまくいかないよね」といった感じで。
土肥: クリスピー・ドーナツは店舗ビジネスなので、店で働く人たちがそのようなマインドであればブランドイメージが悪くなりますよね。
大内: 負け癖をなくすためにはどうすればいいのか。小さな成功を積み上げるしかありませんでした。ちょっした成功でも社内で情報を共有する。小さな成功を何度も積み重ねていくことで、少しずつ変わってきたのかもしれません。
土肥: 行列はもういらない?
大内: 繰り返しになりますが、日本で長く定着して、愛され続けるにはどうしたらいいのか。そのことを考え続けなければいけません。
引用元: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180530-00000021-zdn_mkt-bus_all
みんなのコメント
ちなみに自分は行列の店には行かない。
そしてなんといっても高すぎる
ミスドすら買わなくなった自分がここのドーナツはもう買えないわ
というか運営ロッテリアだったよね?
あまり食べたくないなー
そう言えば今は皆無だね。
あんな、砂糖の塊みたいな食べ物には興味がないのでどうでもいいけど。
言うなれば砂糖味。繊細な味覚を持つ日本人には合わない。
オペレーションとか接客とかどうでもいい。
小麦業界へのお布施
やはり、日本人向けに商品開発した方が良いのでは?
まあ、この記事を機会に、もう1回食べてみようかなとは思うけど、多分「やっぱりミスドの方が美味しい」ってことになると思う。
この前、某スーパーに販売に来ていてかなりの行列が出来ていたけど、期間限定販売って書かれると買いたくなるのかなぁ…と思った。
クリスピーさんは正直無理です・・・
ミスドではこんなことない。
どんなに安くて旨くても、時間の方が大切だから。
甘い
子どもと、20代までの女性しか喜ばない。
日本の場合、ハンバーガーやインドカレーのように外国料理として人気のあるものならばある程度受け入れられるでしょうけど。
愛されている本国の味も大切ですが、日本人向けの味というのも必要なのではないでしょうか。
配っていた。気になったのでもらってみて、食べたが
甘すぎて甘すぎて、こんなもん食ってられるか、と思った。
案の定、客が並んでいたのは最初だけだった。
復活も何もそもそも美味しくなくて不人気なのがバレただけのことでは?
かえってミスドの美味さを見直したくらい。
シナボンみたいにサクッと撤退して再上陸することなく、
踏ん張って内的要因の見直しで復活しつつあるのはスゴイと思う。
買うかと言われたら…うーん?
機会があれば買ってみようかな?
娘が小学生のときに友だちと入店したら、
ドリンクを注文しないとドーナツだけでは
店内で食べさせないと追い出されたらしいからね。
どれだけ殿様商売なんだと思ったよ。
↑大嘘wwwwコンビニのドーナッツなんてwwww
俺なりに思うに、あの店は、カラッとした気候に合う
アメリカンな甘さのドーナッツだった。
多湿な日本に適応する工夫が必要だったと思う。