昨年から今年にかけ、セブン-イレブン(セブン)、ファミリーマート(ファミマ)、ローソンのコンビニエンスストア各社がレジスター(レジ)の刷新を進めており、ファミマとローソンは、店員が客を見た目で判断して押すという、あるボタンを廃止した。
背景にはコンビニ業界の慢性的な人手不足に加え、各社の顧客データの活用に関する戦略の違いもあるという。マーケティングに詳しい青山烈士氏に寄稿してもらった。
◆レジ改善は人材難と表裏一体?
ファミマとローソンが廃止したのは「客層ボタン」と呼ばれるものです。
例えば、客層ボタンを残したセブンの場合、男女別で12歳以下、19歳以下、29歳以下、49歳以下、50歳以上の計10個あります。
客層ボタンの廃止を含め、コンビニ大手3社はともにレジ業務の簡素化(使いやすさの向上)を目指しているという方向性は共通しています。背景には、深刻な人手不足があります。
コンビニのサービスは今もどんどん拡大しています。宅配便の取り扱いから公共料金の支払い、チケットの発行など、店員は多種多様なサービスを覚えなければならないため、スーパーやドラッグストアなどと比べ、「レジの業務が大変」という印象が強いようです。
ただでさえ忙しい仕事の割には、賃金が高くないため人手不足に陥っているにもかかわらず、業務がどんどん煩雑になれば、ますます働き手は減ってしまいます。
各社は、レジ業務の負担を軽減したり、操作ガイドを作成したりし、増えつつある外国人や中高年の店員でも、すぐに慣れることができる職場環境づくりに力を入れているのです。
店舗のオーナーとしても、採用した人がすぐ戦力になってくれれば、新人教育などの負担が減ることになります。
一つでも作業を減らせば、レジ打ちが簡単になる……「客層ボタン」廃止の背景には、コンビニの店舗が抱える厳しい現実があるのです。
◆客層ボタン存続、廃止…各社の思惑は?
「客層ボタン」はレジ上の比較的目立つ位置にあるため、店員が押しているのを見たことがある人もいるでしょう。今回のレジ刷新では、ローソンとファミマは客層ボタンを廃止したのに対し、セブンは残し、大手3社で対応が分かれました。
店員が客の見た目で年齢などを判断し、商品を精算し終えたタイミングで客層ボタンを押します。押さないと会計を終えられない仕組みで、各社は、ここから得られる情報を、店舗の品揃(ぞろ)え改善などに役立ててきました。
しかし、ローソンやファミマでは店員が押した客層ボタンの“正解率”の低さが課題にあげられており、ファミマの自社調査によると、正解率は2~3割程度と店舗運営に役立てるデータとしては心もとないものだったようです。(なぜ“正解”とわかるかについては後述します)
年代の分け方も課題になっているようです。コンビニ各社の来店客に占める50歳以上の顧客の割合は3~4割に達しています。
そもそも働き盛り、子育てもまだ半ばという人が多い50代の人と、年金生活に入っている人が大半の70代の人の購買傾向には差があるのが実情です。それが、客層ボタンではひとくくりにされてしまいます。それでは、客層ボタンによって得られるデータの活用は限定されてしまう、といえるのではないでしょうか。
ローソンは共通ポイントカード「Ponta(ポンタ)カード」の利用率が、来店客の5割程度と高いそうです。客層ボタンより精度の高い、会員番号や性別、年齢などのデータをもとにした客層や購買動向の分析ができる、と判断したようです。
ファミマも同様に、来店客の4~5割が利用している共通ポイントカード「Tカード」の情報から、顧客の属性を把握しており、Tカードのデータと比較した客層ボタンのデータの精度が低かったことも、廃止の判断理由の一つとなったのかもしれません。
一方、客層ボタンを残したセブン。その代名詞とも言われる「単品管理」(一つひとつの商品の売れ行きを分析、品ぞろえを限りなく顧客の要望に近づける手法)の核となるのは、店舗単位の綿密な受発注計画です。
今後も客層ボタンで得られた顧客の属性情報に、全国で計6136万枚(18年5月末現在、モバイル会員を含む)発行したセブン&アイグループの電子マネー「nanaco(ナナコ)」に登録された顧客データを掛け合わせ分析することが、単品管理だけでなく、商品開発や販売促進(販促)にも最適と判断した、と筆者は見ています。
引用元: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180722-00010000-yomonline-bus_all
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