9月26日に行われた安倍晋三首相とトランプ米大統領の首脳会談で、「日米物品貿易協定(TAG)」の交渉開始が決まりました。自動車への追加関税を避けるために、日本側が不本意な2国間通商交渉を受け入れました。毎日新聞のベテラン経済記者、位川一郎・紙面審査委員がこの問題を解説します。【毎日新聞経済プレミア】
◇問題を先送り
日米物品貿易協定の交渉開始に至る一連の経緯を見ると、米国のやり方はとても理不尽に感じます。日本政府がなぜ「トランプさん、あなたは間違っている」と直言できないのか、素朴な疑問がわきました。
交渉では、日米間のモノの貿易について、関税の引き下げや撤廃が協議されます。トランプ氏が貿易赤字削減のために関心を持つ自動車や農産品が焦点になる見込みです。
首脳会談では、(1)交渉中は自動車への追加関税を発動しない(2)日本の農産品の関税引き下げは、2016年に日米を含むアジア太平洋の12カ国が署名した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の水準までとする--ことが合意されました。
米国はTPPから離脱しましたが、農産物に関しては、その合意内容をとりあえずは尊重することになったのです。
この結果について、日本の関係者の多くが「ひとまず最悪の事態は避けられた」と受け止めたようです。米国への自動車輸出が追加関税で急減したり、日本の農業が輸入品の急増ですぐに打撃を受けたりする事態にはならなかったからです。
ただ、それは問題の先送りでしかありません。自動車の追加関税の回避は交渉の間だけのことです。
また、農産品を「TPP水準以下」とすることについて合意は「尊重する」としか言っていません。米側が今後、要求を強める懸念は消えていません。
◇恫喝と呼ぶほかはないトランプ氏のやり方
トランプ政権が検討している自動車・同部品の輸入に対する最大25%の追加関税は、一方的制裁を禁じた世界貿易機関(WTO)のルールに違反するとみられます。
制裁をちらつかせて市場開放を迫る手法は、恫喝(どうかつ)と呼ぶほかはありません。トランプ大統領のやり方はどう考えてもおかしいのです。
しかし、トランプ氏がこの措置を表明した今年5月以降、日本政府のコメントは「日本からの自動車や部品の輸入は、米国の安全保障上の障害になったことはない」といった遠回しな批判が中心で、本気で撤回を迫る迫力は感じられませんでした。
また、報道で知る限り、安倍首相がトランプ氏の通商政策を直接厳しく批判した言葉も記憶にありません。
9月6日には、トランプ氏が安倍首相との親密な関係について「(通商問題で)どのぐらい(対価を)払わないといけないかを日本に伝えた途端、
当然(関係は)終わるだろう」と述べたと報じられました。大変な侮辱だと思いますが、この発言に対する首相や政府の批判コメントは見当たりませんでした。
◇トランプ氏の怒りを避けるため?
たぶん、日本側の融和的な姿勢は、トランプ氏の理不尽さを十分認識しつつ、首脳の個人的関係を維持して日本が望む方向へ誘導する意図からでしょう。厳しい発言でトランプ氏を怒らせるといっそう不利益を被る、と考えているのかもしれません。
事情は多少理解できます。しかし、上記の通り懸念材料は山積みしています。今後の交渉で日本の損害が最小限にとどまる保証はないと思います。
「暴君」の機嫌を損ねないようにして言いたいことも言えない日米関係は、とうてい対等には見えません。これでは国民の共感を得られないのではないでしょうか。
引用元:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181007-00000009-mai-bus_all
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