【有本香の以毒制毒】
安倍晋三首相は来週25日に中国を訪問し、翌26日、習近平国家主席と会談する。両首脳の会談はこれで8回目となるが、6年前の第2次安倍政権発足以来、国際会議を除いて安倍首相の中国訪問は初となる。
この6年、「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」をキャッチフレーズに、自ら世界76カ国を精力的に訪問してきた安倍首相が「あえて訪れなかった国」の1つが中国だ。
安倍首相が6年間、中国の周辺国(ASEAN=東南アジア諸国連合=や中央アジア諸国、ロシア)へは積極的に訪問し、
ロシアやASEANの一部の国々を複数回訪れてきたことを見れば、「中国パッシング(無視)」が戦略的意図によるものだったことは明白だ。今回はその禁を解いたことになる。
今月23日は、トウ小平時代に締結した日中平和友好条約の発効から40年の節目にあたる。日中の外交当局は「関係改善に弾みをつけたい考え」だと伝えられるが、果たして安倍首相の真意はどこにあるのか。
40年前と今とでは、日中関係は大きく変化した。ことに、この6年の両国をめぐる情勢の変化は大き過ぎると言っても過言ではない。何より、米国が政権交代に伴い、対中政策を転換させたことの影響が大きい。
米中は今や、「貿易戦争」で激しくやり合うのみならず、ウイグル人への人権弾圧などに関し、米国がかつてないほど激しく北京を非難している。
この現状を「米中冷戦」と評する米国の識者もあるなか、米ソ冷戦を振り返ると、今、日本がいかに振る舞うかが極めて重要だということも見えてくる。
ソ連の失敗の要因の1つは、経済運営の失敗にあった。
衛星国に過度に資金投入したことによる財政圧迫が大きかったが、今の中国もASEANや南アジア、中央アジアなどの周辺国のみならず、アフリカや中南米の国々にまで大枚をバラまいている。
事実上の軍事拠点を得るため、台湾との国交を断たせるためなど、理由はさまざまあるが、いずれにせよ中国は自らの国力を過信し、国際社会での「ゲーム」を少々急ぎすぎたきらいもある。
貿易での稼ぎで積み上がった外貨を使えるうちはよかったが、この稼ぎが「貿易戦争」で干上がれば、たちまち不良債権が膨れ上がる。習氏肝いりの巨大経済圏構想「一帯一路」も、このまま拡大すれば、かつてのソ連のように不良債権をため込む要因となろう。
まさかとは思うが、安倍首相が今回の訪中の手土産に、「一帯一路」の手助けを約束、というような事態にならないか懸念する声も聞かれる。
これと関連づけ、12年前の第1次安倍政権が「中国訪問」を皮切りにスタートして短命だったことを引き合いに、「訪中は縁起が良くない」と言う安倍首相支持の識者もいる。
そんななか、92歳にして政権トップの座に返り咲いたマレーシアのマハティール首相(現在93歳)の英断を伝えるニュースが飛び込んできた。中国政府からの再三の働きかけに反し、自国内にいたウイグル難民を中国へ送還しないことを決めたのだ。
まさに、「NOと言える」マハティール健在を見せつける朗報だが、わが国の安倍首相はどうか。野党時代から首相となった今も、日本ウイグル国会議員連盟の最高顧問である安倍首相の「NO」と言う力を、今こそ期待したいところである。
■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『リベラルの中国認識が日本を滅ぼす』(産経新聞出版)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)など多数。
引用元: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181020-00000001-ykf-soci
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