私が人生で初めて全身麻酔手術を受けたのは、医師になって数年たってからのことでした。この時、手術前後で1カ月近くの入院を経験しました。私は初めて入院患者となり、それまで全く気づけなかった驚くべき事実を知ることになります。今回は、医師から患者になったことで、私がどんなことを学び、どんなふうに成長できたのかを書いてみたいと思います。
全身麻酔手術は怖い
外科医は、毎日のように患者さんに全身麻酔手術を受けていただく仕事です。
いつも手術前の患者さんからは、「ちゃんと麻酔が効くでしょうか?」「途中で麻酔が覚めたりしないでしょうか?」「手術が終わっても麻酔が覚めない、なんてことはないでしょうか?」と質問攻めです。
全身麻酔は薬で突然意識を失わせる行為なので、怖いのは当たり前です。しかし実体験のなかった私はそれまで、患者さんにニコニコして「大丈夫ですよ!」と言っていました。
今日の全身麻酔の技術は非常に安全ですから、ことさらに心配する必要はありません。これは私が毎日のように肌で感じていたことです。
ところが、自分が全身麻酔手術を受ける段になった時、言いようもない恐怖を覚えました。「麻酔薬が注射される時はどんなふうに意識がなくなるのだろう」
「目が覚めた時、口の中に気管チューブが入っているのは苦しくないだろうか」「麻酔薬の副作用で出る吐き気はつらくないだろうか」実にさまざまな不安が去来しました。
自分が手術を受ける段になって初めて、全身麻酔への恐怖を味わうことになったのです。それ以後は、患者さんの不安をじっくり聞いて共感し、それまで以上に丁寧に繰り返し説明するようになりました。
医師にあまり本当の気持ちを伝えない
手術後は、自分の体が問題なく回復しているかどうか、不安で仕方がありませんでした。医師である私ですらこうなので、医療の専門家でない患者さんからすれば、その不安は計り知れないでしょう。
そして、毎日のように主治医が病室に顔を見せるのを心待ちにすることになります。毎日、自分の体に関して主治医への質問がたくさんたまってきます。
ところが、いざ主治医が病室にやって来て、その忙しそうな姿を見ると、「今こんなことを言うと迷惑ではないか?」
「ある程度、痛みは我慢した方がいいのではないか?」と気を遣うので、正直な気持ちは伝えにくくなります。とにかく話したいことがたくさんあるのに、遠慮して一部しか伝えられないのです。
私は医師として患者さんと接する時は、「不安なことがあれば私に何でも言ってくださいね」と言っていましたが、それだけでは不十分だということが分かりました。遠慮がちな方には忙しそうな姿をなるべく見せず、「じっくり全ての情報を引き出そう」という姿勢を見せるようになりました。
引用元: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180808-00010000-jij-life
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