不慮の事故について、小児科医で緑園こどもクリニック(横浜市)院長の山中龍宏さんに聞きます。(聞き手・萩原隆史)幼い子をお風呂に入れていて、ヒヤッとした経験はありませんか。浴槽で子どもが溺れる事故は、今も昔も不慮の事故の多くを占めています。中でもリスクが高いのは、浴槽で使われる乳幼児用の浮輪です。
浮輪の真ん中の穴の部分に、子どもが足を通して座れるシートを取り付けたタイプは「パンツ型浮輪」とも呼ばれます。
ある日の夜、この浮輪を使って生後9か月の男児と一緒に入浴中の母親が、洗髪で少し目を離した際、声がしなくなったのに気付きました。見ると、男児が浮輪から外れ、うつぶせで浴槽に浮かんでいました。
すぐに人工呼吸をして救急車を要請。男児は集中治療室に入りました。発見と処置が早かったため、翌日には普段通りに母乳を飲めるまで回復しましたが、事故直後は呼吸が一時的に止まるなど危険な状態でした。
同種の事故報告はいくつも寄せられていますが、その多くは、親が洗髪で3分前後、目を離したすきに起きています。
本来、親の監視下で使うものですが、どちらかというと、入浴中に親がちょっと目を離せる便利グッズとして扱われることが多いのではないでしょうか。
子どもの事故が起きた場合、多くの人が口にする言葉があります。「親の責任」「親の不注意」「親が悪い」――です。
けれど、親を非難するだけで事故が減るわけではないし、注意喚起だけでも防げません。この製品に限らず、事故が繰り返されるケースは少なくありません。
事故を科学的に分析し、具体的な防止策を考え、実行することが重要です。浮輪による事故についても、転覆の仕組みを詳しく検証したところ、危険の本質が見えてきました。
「あっ」という間…転覆開始から2秒足らずで逆さ宙づりに
浴槽で事故が相次いだ乳幼児用の浮輪について、生後6か月の乳児を模した人形を使い、科学的な検証を行いました。浮輪は船と同じように、ある程度傾いても復元力が働き、転覆しません。ところが身を乗り出すと、25~30度傾いたところでひっくり返ることがわかりました。足を浮輪に通している子どもは、浮輪と一緒に裏返り、浴槽内で逆さ宙づり状態になってしまいます。
さらに、詳しい画像解析の結果、転覆開始から2秒足らずで逆さ宙づりになることが判明しました。まさに「あっ」という間の出来事。あまりに危険性が高いといえます。
そもそも、重心が浮輪より高い位置にあることが危険の本質です。浮輪がわきの下や肩の位置にくる仕組みなら、
こんな危険な転覆は起きません。事故が相次いだ浴槽用浮輪については、業界団体が2007年、安全な玩具を示す「STマーク」の対象外とし、国内メーカーが製造・販売を自粛しています。
問題は、店頭で販売されなくなった製品や、似たタイプの浮輪の事故がその後も発生していることです。例えば、母親が友人から便利だと聞いて借りた浮輪で生後9か月の女児が溺れたという事故は、調べてみると、かつて事故を起こしたものと同じ製品でした。
事故が絶えないのは、インターネットで類似製品が購入でき、ネットオークションでも取引されているからです。知人から借りた子ども用品や、譲り受けたおさがりの中に、かつて問題になった危険な製品が含まれていることもあるでしょう。
この浮輪に限らず、死亡や重症化につながるリスクが高い製品については、規制のあり方を見直す必要があるといえます。
引用元: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180923-00010000-yomidr-sctch
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