松本亜樹子 特定非営利活動法人Fine=ファイン=代表
先日、東京都内の妊活セミナーで、医薬品会社の研究者Tさん(43)と、お会いしました。白と紺色のツートンのワンピースをすらりと着こなすTさんは、30代前半くらいにしか見えません。さすが、10年前にプロジェクトマネジャーに抜てきされただけあって、ほれぼれします。昨年出会いがあり、この春に結婚したとのこと。
そのTさんの質問に、絶句しました。
「子どもは欲しいので、そろそろ卵子凍結を考えています。若いうちがよいのですよね?」
「えええっ?!」という悲鳴はなんとかのみ込みましたが、あとはしどろもどろ。
「あの、えっと、『卵子凍結』って、そのまま妊娠・出産につながるわけじゃない――ので、1個保存すればよい、ってものじゃなくて、た、たくさん必要だし……。あ、いや、その前に、年齢によっては、卵子も採れなくて――。っていうか、若いうちって……?」
もう、お若くないのですけど――とは、言えません。「と、とにかく、ぜひ、いえ、すぐ、専門家に相談に行ってくださいっ!」と、最後はほぼ絶叫調になったのでした。
40代後半、ともすれば50代でも!…有名人の成功例が誤解を呼ぶ
不妊治療への関心や世間の理解は、少しずつ高まってきていると感じています。でも、その入り口の情報がまだ知られていないなと思うことが少なくありません。Tさんの例はその典型です。ご自分の年齢と、妊娠のしやすさについての認識が乏しいのです。
その原因に思い当たることがあります。
有名人の高齢出産が取り上げられ、それが40代後半、ともすれば50代だったりとするからです。それなら、自分にはまだ余裕がある――と、皆さんが思っても無理はありません。
でも、そうした成功例(だからニュースなのですが)の裏にある、山ほどの苦労話や、出産できなかった方たちのつらさは、ほとんど語られることがありません。
避妊をしないのに1年以内に妊娠しなければ、「不妊」
それなら、年齢が上がったら、不妊治療を受ければよいのね、と思いますか? 実は、私もそうでした。でも、解決策をみつけたつもりで、
30代に入ってすぐ、初めて受けた体外受精で妊娠できなかった時には、がく然としました。「体外受精さえすればすぐに妊娠できるはず」と信じきっていたからです。
不妊治療が、赤ちゃんに会いたいあなたの望みをかなえる「魔法のつえ」になるとは限りません。さきほどの2015年のデータでも、出産できる可能性は、1回の治療につき12%を下回っています。最新医学の力を借りても、厳しい数字なのです。
年齢に関係した話では、もうひとつあります。年が上がると、とても残念なことに、流産したり、妊娠中毒症や難産になったりするリスクが高まります。
35歳以降は「高齢出産」とみなされます。これは、昔と少しも変わりません。今は、私たち女性の社会進出が進み、見た目も気持ちも若いため、この点を見過ごしてしまうのです。私もそうでした。
でも、人間の生殖機能の限界は変わっていないことを、ぜひ知っておいてほしいのです。
引用元: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180830-00010000-yomidr-sctch
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